僕俺僕俺
自宅では基本、節約としてエアコンを使わずに扇風機を活用している。更なる節約として風量を最弱の微に固定して一昼夜を過ごしていたが、しかし流石にここ最近の猛暑に耐えられなくなり、思い切ってその次の風量である弱に切り替えてみた。
するとどうだろう。もはや強なのではと思うほどの風圧で、このままでは身体ごと部屋の隅に吹き飛ばされやしまいかと恐れすら浮かんでしまった。
提案としては微と弱の間に、言うなれば微弱というのを設けてはいかがだろうか。風圧を徐々に慣らしておくことで老体にも優しい扇風機ライフが送れるであろう。
話は変わるが、男性の一人称も僕と俺の間の言葉が欲しいと常々思っている。僕では弱いし俺では強い。これも間を設けるならば、先程の微弱を倣って僕俺ということになるが。
「もしもし、僕俺僕俺、僕俺だけど」
「ん、何だって?」
「僕俺さぁ、さっき交通事故で……」
「ご高齢? あぁ、確かに私はご高齢だよ、何せ今年で90だからねぇ」
「いや、ご高齢じゃなくて僕俺。あのね、さっき交通……」
「ん、80だったか? はて、どっちだったかのぅ。どうだ、覚えとらんかい?」
「知らないよ、僕俺は。ちょっと一旦聞いて、孫の話を。さっきね……」
「知らないぃ!? 孫だったら覚えていて当然じゃないかいぃ!?」
「急にどうしたんだよ」
「さぁ、当ててごらん!」
「えぇ? えーと、じゃあ83!」
「残念、私は今年で118歳さ!」
「ギネス!」
僕俺の浸透により、振り込め詐欺の被害件数が減少する未来が見えた気がする。扇風機の風量から思わぬ結論に辿り着いた。風が吹けば何とやらだ。
+3ビスコ。
【6ビスコ】